慢性便秘について

慢性便秘は厚労省のH25年国民生活基礎調査では1,000人あたり男性は26.0人、女性は48.7人の方にみられ、70歳で男女の差がなく、80歳以降は男性に多くなっているとされています。全体をパーセンテージにみると便秘を抱えている方は2〜5%(別の文献では14%)程度です。高齢者は持病があることや服用している薬剤が増えること、筋力も低下すること等が影響して慢性便秘に繋がりますが、女性では腹筋力が弱いことや月経、妊娠により黄体ホルモン分泌による蠕動運動抑制が関わっていると言われています。

また、慢性便秘の様々な背景として食習慣(高脂肪食や食物繊維不足、睡眠不足等)やストレス、うつ病、所得、学歴なども影響するとされ、排便環境の変化(旅行など)によっても慢性便秘に繋がります。しかしながら便秘そのものは命にかかわる大きな病気ではないことや、便秘で受診することに躊躇いを覚えることも関係してきちんと治療をするという認識も少なく、ほとんどの場合はOTC(薬局で購入できる薬剤)で対応されています。ただし、OTCには刺激性下剤が多く、刺激性下剤の特徴として短期的には効果がありますが長期に渡って服用していると効果が減弱し、それにより服用量が増えることもあるために注意が必要です。ちなみに、便の正常を評価する方法としてBristol stool form scaleが世界共通で使用されています。これは便の硬さを7段階に分けて評価するもので7段階中1〜2を硬便、6〜7が軟便とされています。興味がありましたらネット上でもご覧になれると思いますので検索してみてください。

慢性便秘の病態

病態としてはガンや虚血、憩室などの器質的疾患や糖尿病や甲状腺機能低下症など内分泌・代謝性疾患、うつ病や心気症など精神・神経的異常、薬剤の影響などがあります。反対に慢性便秘から引き起こされる症状としては胃排出能(胃内に内容物が流入してから排出するまでの能力)の低下や食道括約筋の弛緩によりGERD(胃食道逆流症)などの胃腸系障害や、便の圧迫による尿閉、便秘による腹圧上昇により下肢静脈瘤などがあり、更に便秘により腸管内の慢性炎症が起こり免疫系が活発になることで心血管障害による死亡率上昇とも関連してきます。

慢性便秘の分類

慢性便秘には大きく分けて機能性便秘と二次性便秘に分類されます。機能性便秘は原因が不明で便秘そのものが症状となるもので更に細かく3つに分けられます。従来までは弛緩性、痙攣性、直腸性の3つに分けられていましたが現在では腸管機能を測定する検査が進歩して腸管通過時間が測定できるようになったため、通過時間により結腸通過時間正常型、結腸通過時間遅延型、便排出障害型に分けられています。

結腸通過時間正常型タイプ

結腸通過時間正常型では幼少時の意識的排便抑制やダイエットや加齢による食事の摂取が減少しそれにより直腸の感受性が低下し、排便の回数が少なくなります。腹部の不快感や腹痛を伴うことが多く、便意の低下が特徴です。精神的ストレスと深い関連があるとされています。

結腸通過時間遅延タイプ

結腸通過時間遅延型は、3つの中で最も多く通常では食事をした後に大蠕動という大腸の大きな動きが生じますがこれが十分に機能せず、原因として消化管の運動やリズムを調節しているcajal(カハール)細胞の減少により消化管の運動能が低下しているとされています。

排便出障害型タイプ

排便出障害型は骨盤底筋協調運動障害や腹圧(いきみ)、直腸知覚、直腸収縮力の低下等により直腸に便が溜まっていて便意があるけれども排泄できないものです。

以上の3つの障害は腸管機能を測定すれば分類できますが、日本では保険適応がないために専門施設でしか実施されていない現状があります。

慢性便秘の治療

治療としてはそれぞれの病態においた適切な投薬がありますが、それよりもまず一番初めに行うことが生活習慣と排便習慣の改善です。生活習慣は聞き慣れているとは思いますが排便習慣は聞いたことがない方もいるでしょう。排便習慣とは便秘でなければ通常は排便を行いますがその行為そのもののことで、慢性便秘を患っている方は排便習慣があまりありません。そこで排便習慣の改善法としては朝にトイレトレーニングを行うことが勧められています。これは食後に起こる腸の大蠕動という便を輸送する動きがみられますが、この動きは朝が最も亢進しています。これにより朝食後の2時間以内、あるいは散歩などの運動後2時間以内が排便に良い時間帯とされています。

トイレトレーニングは食後30分を目安として5分間トイレで35°の前傾姿勢で排便を促します。35°とは骨盤の可動域が高まることや腸の角度の関係上、この角度が排便するのに一番良い姿勢とされています。これを1日2回程度を目標に行います。また、食事においては米、味噌汁、大豆といった日本食が良いとされ、その他に食物繊維や水分摂取、プロバイオティクスがあり食物繊維については1日20g以上が摂取目安とされています。食物繊維には便量や便性状の改善、ph低下や浸透圧増大による大腸通過時間の短縮といった効果がありプルーンや穀類に多く含まれています。ただし、腹痛や腹部膨満感が症状として起こるIBS-Cの方は食物繊維により症状が増悪することもあるため、摂取は少量から無理なく行い様子を見ながら増量していきます。

水分に関しては腸管内へは1日で約9L(飲水2L、消化液7L)の水分が流入しており、その80〜90%が小腸で吸収され残りの10〜20%が大腸で吸収されます。水分を摂取することで便秘に有効な報告は沢山あります。プロバイオティクスは腸内微生物のことで中でもビフィズス菌は腸管内phを低下させることで前述のように大腸通過時間を短縮させたり、腸内微生物全般では抗炎症作用や免疫作用があるため腸の運動能低下を改善します。市販のビフィズス菌食品を2週間便秘患者が摂取した所、排便回数や量の増加がみられたとあります。

慢性便秘に使われる薬

生活習慣や排便習慣の改善を図ったにも関わらず期待する効果が出ない場合は薬剤を使用します。便秘の薬剤は緩下剤と刺激性下剤、座薬と主に3種類があります。

緩下剤について

緩下剤とは主に浸透圧性の酸化マグネシウムと膨張性のルビプロストンがあり、これらの作用は緩やかで習慣性がなく極めて安全な薬剤であります。また、多量の水分と共に服用すると効果がよりみられます。ただし留意すべき点として酸化マグネシウムは高マグネシウム血症を起こす恐れがあります。高マグネシウム血症の症状として嘔吐、傾眠、徐脈、筋力低下が初期にみられます。高齢者には複数の持病があり相応の薬剤も併用していることと腎機能の低下も考慮して慎重な投与が必要です。また、長期投与の場合と同じように定期的な血清マグネシウム値の測定が不可欠です。透析患者をはじめ腎機能障害者、重度な便秘の方は血清マグネシウム値は上昇しやすく、心臓機能に障害がある方は高マグネシウム血症時に心機能の悪化が顕著になります。飲み併せとしては高カリウム血症改善薬を始めとして効果が減弱してしまうもの、あるいは高マグネシウム血症になりやすい活性型ビタミンD3製剤などがあります。

ルビプロストンにおいては日本では1980年に下剤が発売されて以降約30年もの間、新たな下剤が発売されない中2012年に発売されました。まだ新しい薬として臨床例は酸化マグネシウムより少なく、薬価が酸化マグネシウムよりも高いこと、妊婦では胎児への影響があるために禁忌であり、腸閉塞や肝臓・腎臓機能の障害がある場合は注意が必要ですが、様々な研究で排便の回数が増加すること、長期投与にてQOL(生活の質)が改善されることなどが報告としてあるので、今後の第一選択薬としての期待も高まっています。副作用としては嘔気が最もみられるとされていますが、食事を摂った後に服用すればかなり嘔気は減少するとも言われています。

刺激性下剤について

次に刺激性下剤ですが、この薬剤はアントラキノン系誘導体とジフェノール誘導体の二つに分けられます。アントラキノン系薬剤は成分としてセンノシドや大黄があり、これらは主に大腸の腸内細菌によりレインアンスロンという物質に変化します。このレインアンスロンが大腸の粘膜や腸内細菌叢を直接刺激すると大腸の蠕動運動が引き起こされて便通を促します。また、粘膜上皮にも働きかけて水分やナトリウムの吸収を阻害することで円滑な便が通るようにします。

もう一方のジフェノール系薬剤は日本ではアントラキノン系薬剤よりも使用される頻度が低いですが、アントラキノン系薬剤よりも腸管への刺激が少なく効果も優しいことが特徴としてあります。これらの刺激性下剤の注意点としては、長期にわたり服用、あるいは乱用することで耐性や習慣性が作られてしまい腸管運動の低下や腸内細菌叢の障害が引き起こされ、結果として腸管の弛緩と拡張が起きてしまい治らない慢性便秘になってしまうことがあります。更に大腸偽メラノーシスという細胞破壊により免疫機能が働き大腸粘膜が黒く変色してしまう病態になり、それが大腸ガンのリスクになるとの報告もあります。なのでこれら刺激性下剤は生活習慣の改善と緩下剤で期待する効果がみられない時に初めて使用し、短期的に頓用として服用することが望ましい薬剤と言えます。長期服用や乱用はするべきではありません。さらにほとんどの市販下剤薬では刺激性の成分が含まれているので、市販薬を乱用あるいは長期服用することも刺激性下剤と同じように良くありません。

座薬について

最後に座薬についてです。座薬はビサコジル座薬、重曹座薬の2種類があり、ビサコジル座薬は副交感神経を刺激することで腸の蠕動運動機能を高めることが出来ます。そのため、腸内容物をなかなか輸送できない通過時間遅延型の便秘や、直腸まで便が来ているのに排出できない排出障害型に有用です。効果が出るまでには15〜60分程かかります。注意すべき点として、ビサコジル座薬は刺激性下剤の分類に入るために長期の使用で耐性や習慣性が生じることが挙げられます。そのため保険上では1日に2個までとされています。

重曹座薬は重曹が水分を吸収するに伴いCO2を放出します。座薬なので肛門に近い直腸で主に発泡するので直腸にある便を増量させて、それが直腸壁を刺激して排便反射が起こる仕組みになっています。更にCO2は腸の蠕動運動を促進することに加え、座薬が溶けると表面に層を作るので、より便が円滑に流れやすくなります。重曹座薬は5〜15分程度で効果が出るのでビサコジル座薬よりも即効性があります。こちらも同様に通過時間遅延型と排出障害型に有用です。使用量は1日3個まで使用でき、刺激性下剤ではないので依存性は起きにくいですが、急激な排便により気分不快や徐脈、失神などの迷走神経反射が起こることもあります。迷走神経反射とは副交感神経の刺激症状のことで、副交感神経が優位になりすぎるために起こる症状のことです。

機能性便秘以外の便秘

機能性便秘の他に器質的疾患、機能的疾患による便秘があり、以下に便秘の原因となりうる疾患について挙げていきます。器質的疾患としては大腸ガン、虚血性腸炎、慢性巨大結腸症、慢性偽性腸閉塞症、クローン病、肛門病変などがあり、機能的疾患では副甲状腺機能亢進症、糖尿病、アミロイドーシス、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、低カリウム血症、褐色細胞腫、筋ジストロフィー、強皮症、ヒルシュスプリング病、脊髄損傷などがあります。中でも特に大腸ガンは注意を要する疾患で50歳以上の遺伝的に大腸ガンがあり、便が細く量も減ってきていたり、徐々に便秘が増悪、腹部膨満感や腹痛、夜間痛、体重減少などがみられる際は大腸の精査を受けられる病院を受診しましょう。上記に加え血便や貧血がみられるようならば速やかに受診してください。

PAGE TOP